プロローグ

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 塩素系の洗剤と酸性の洗剤。スーパーで簡単に手に入るこの二種類の洗剤を混ぜると有毒ガスが発生して楽に死ねる。らしい。  死に方は他にも色々考えた。首吊り、飛び降り、身投げ、飛び込み等々。それらの中からおいらが有毒ガスを選んだ理由は三つ。  一つ。川に身を投げたらどこかに流されて、しばらくは行方不明扱いになるかもしれない。  二つ。人は酸欠で死ぬと、便や尿が垂れ流しになるって、るろうに剣心で読んだ事がある。そんな汚い死に方は嫌だ。死体が辺りに飛び散るという理由で飛び降りや電車に飛び込みも無し。おいらの死体を清掃する人に迷惑をかけたらダメだ。  そして三つ。これから死ぬくせにこんな情けない理由があるかって話だけど、死ぬならやっぱり楽に死にたい。苦しいのは嫌だ。だからおいらは毒ガスを選ぶ。  遺書は書いた。何度も見直しをした。窓も閉めたしドアも閉めたから、有毒ガスはこの部屋を十二分に満たしてくれるはずだ。  おいらは早速塩素系の洗剤のキャップを外し、中身をバケツに注ぐ。これだけでもう臭いが相当キツイ。でもここに酸性の洗剤を入れれば、この刺激臭もろとも楽になれる。インターネットのサイトでそう書いてあった。  おいらは酸性の洗剤のキャップを開ける。  ……これで。これを入れて。そして終わる。全部終わる。  人は死ぬとどうなるんだろう。人として生まれたからには、誰しもがそんな想像をした事があるだろう。  生まれ変わる、幽霊になる、あの世に行く。あの世から戻って来た人間がいないから、この世ではそんな憶測と言うか信仰の数々が飛び交っているけど、やっぱり『無』が一番有力なんだろうなぁ。何も感じない、何も考えられない、何も存在しない。それって一体どんな気分なんだろう。  ……いや、何も無いんだから気分なんてのも勿論無いんだろうけど。  おいらの知ってる感覚の中で一番近い例を挙げるなら、睡眠がそうなのかもしれない。そうだったらいいな。寝るのって気持ち良いし。もしかしたらその気持ち良い状態が無なのかもしれないし。 「……」  おいらは酸性洗剤を一気にバケツに入れて、ベットに横たわった。塩素系の洗剤だけとは比べ物にならない刺激臭が……、ていうか刺激その物が部屋中に飛び交うのを感じる。
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