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―私は雨が嫌いだ。
でも、今日の雨はとても優しかった。
あれだけ流した涙を全て洗い流してくれた。悲しみも一緒に流してくれればいいのに。
そんなことを思いながら、ひとり呟いた。
―なんであんなこと言ってしまったんだろう。
彼の方が辛いはずなのに、私ばっかり……。
自分が嫌になる。私最低だよね。優雨と一緒にいる資格なんてない。
何時間そうしてただろう。
雨でずぶ濡れの私の前に人影にが覆いかぶさった。
顔をあげると、息を荒げて私を見る優雨の姿があった。
「よかった、いた」
安堵したのか一瞬顔が緩んだがすぐに真剣な眼差しで私を見る。
「確かに俺は臆病になっていた。怖かったんだ、大切な人をまた失うことを。あんな苦しみにはもう耐えられない。だからお前と一緒にいすぎるのが怖かったんだ。
でもさっきのお前の言葉……俺達は『いま』を生きてる。こんな簡単な事に気づけなかったなんて、お前にバカって言われても仕方ないよな」
そこで優雨は一度言葉をきった。私はどんな事を言えばいいかわからず、優雨の目を見つめることしかできなかった。
「だから俺決めたんだ。これからはお前と一緒に『いま』を生きようって。守れなかった彼女の分までお前を守って生きようって。
それが生き残った者の努めだと思うから」
優雨は私の身体を抱き寄せた。力強くて、暖かくて、そしてなにより優しかった。
私は優雨の胸の中でいっぱい泣いた。悲しみではなく、喜びの涙をいっぱい流した。
「ひとつ言い忘れていた事があるの」
涙でくしゃくしゃになった顔で優雨と見つめ合う。
「これからは悲しみや苦しさは二人で半分こ、でも喜びと楽しいことは二人で二倍だよ」
生涯最高の笑顔になった。優雨も笑い返した。
「ありがとう」
「あらがとう、優雨」
私たちは唇に優しいくキスをした。
そして優しい雨はあがった。
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