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―私は雨が嫌いだ。
空が泣いている様な気がして私まで泣きたくなるからだ。
実際、私は今泣いている。
私の彼、優雨(ゆう)のせいだ。
「なんであんなこと言っちゃったんだろ」
私はひとり呟いた。
―数時間前―
「ねぇ優雨、ちゃんと聞いてるの!?」
「ん、あぁ」
やっぱりこの辺りを歩いちゃまずかったかな……。
私は内心後悔し、さしている傘の柄を強く握りしめた。
優雨は昔、この辺りで交通事故により大切な女性を亡くしている。
そう、今日よりももっと強い雨だったらしい。
優雨が運転する車が雨水に車輪をとられスリップを起こしたのが原因だ。
確かに悲しい出来事だったはずだ。でも今は私がいる。我が儘かもしれないが私だけを見ていてほしい。
そんな憤りがいつの間にか溜まり、そして爆発した。
「また、あの人のこと?」
私は静かに尋ねた。しかし、優雨から返ってきた返事は無言だった。
「またあの人のことかって聞いてるの!!」
今度は声を荒げて聞いた。優雨が驚いたようにこちらに顔を向けた。いつもの悲しい顔だった。
「うん、そうだよ。ごめんね、いつもこんなんで」
なだめるような優しい口調。けど今はそんな言葉なんていらない。
「謝らないでよ。私が悪いみたいじゃない」
「ごめんな、お前は悪くなんかない。悪いのは俺なんだ。
今でも思うよ、あの時事故なんて起こさなければって……。俺もお前も辛い思いしなくてすんだのかなって」
優雨の悲しみの色がどんどん深くなっている気がした。
「やっぱり優雨は何も分かってない、分かってないよ」
全身が震えていた。雨の冷たさ、憤り、悲しみ、その三つで私の身体は震えていた。
「私たちは『いま』を生きてるんだよ。それなのに優雨は……前に進もうとしてくれない。まだ『過去』に生きてる」
私の声は段々と小さくなった。
そして最後に呟くように、
「優雨のバカ、前に進むことに臆病な優雨なんて嫌い」
後ろを振り返り走り出した。脇目もふらず、ただがむしゃらに。雨で濡れる事構うことなく。
そして小さな公園にたどり着いた。
ベンチに腰掛け、大声で泣いた。子供のように。
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