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海王の自宅は高級住宅街にそびえ立つ高層マンションの一室。
ドアを開けて暗い玄関に足を踏み入れるが人の気配はしない。
「ただいま~…って言ってもまだ誰も帰って来てないよなぁ…」
誰もいない家というのは海王卓にとっては当たり前のことで、
むしろ夕方に誰かいることの方が珍しいと言ってもいいくらいだ。
「仕事…か」
リビングの机の上には一万円札が無造作に置かれているが、これも特に珍しい光景ではなかった。
父親は海王堂本社の社長であり、兄も海王堂の支社で社長である。
幼くして母親を亡くしてから卓は温かい家庭を望まなくなった。
「仕方ない」と割り切ることで、寂しさを忘れようとしていた。
「ピザでもとるかな」
そんな家庭環境にあるせいか父は卓を甘やかし卓の欲しい物を買い与え望むことを自由にさせた。
その結果、周りから疎まれて疎外されても痛くも痒くもないのは…卓に逃げ込む場所があるから。
「さて…と。ピザが来るまでひと狩り行っとくか~ログイン!」
ネットの住人は信頼できる。
姿は見えなくてもリアルの人間にない温かさを持っている。
ここでは身分なんか関係ない。
『海王』の名前に縛られることも…そのせいで疎外されることも…ネットの世界にはない。
ここは卓のオアシスなのだ――…
「だから、寂しくなんかない…」
それでも心は虚しいままだった。
―――――――――――――――
卓のマンションのすぐ隣にそびえ立つ一回り小さなマンション…
その一室に若い男が入ってきた。
表札には『北見』と刻まれてる。
「良江ー、帰ったぞ。良江?」
呼び掛けても人の気配すらない。
「いないのか…?確か今日は収録日じゃなかったはずだが…」
ゆっくり部屋に上がり寝室を見てみるが妻の姿は見えない。
薄暗い通路を辿りリビングの扉を開けて辺りを見渡してみるが…
「なんだ、夕飯の準備もしてないじゃないか。本当にどこに――」
その時、男の目にベランダに続く窓が開いているのが見えた。
「ま、まさか…っ」
男は唾を飲み込み、そっと窓から身を乗り出して眺めてみた。
すると、そこにあったのは――…
「――なっ!?」
そこで見つけたものは、まったく予想だにしなかったもの…
男は何を見つけてしまったのか。
そうして、日は暮れて行く――…
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