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「こっちだよ」
「アリス、」
ぐにゃりと視界が歪んだ。
あれ、私・・・
貧血とか、なのかな・・・
早くイーディスを呼んでこなきゃ、いけないのに・・・
―――――――――――
「アリスお姉ちゃん。」
イーディスの声がする。
なぁに?イーディス?
返事をしても彼女は上の空。
どうやら声は聞こえてはいないらしい。
「どうして私の国じゃないのかしら」
イーディスが何を言っているのかわからない。
どうしたの、イーディス。
「お姉ちゃんがいなくなれば、不思議の国は私のものになるのよね。」
「そうだよ、僕等のアリスさえいなくなればこの国は君、イーディス・リデルのものだよ。」
私から不思議の国を奪う?
何を言ってるの・・・?
イーディス、あなたは本気なの?
猫に騙されているのではないの?
「耳を塞いで、私のアリス。」
冷たい手が私の耳を塞ぐ。
やさしい感度に張り裂けそうな胸が和らぐ。
帽子屋は私の額にそっと額をぶつける。
「何があっても、私は君の味方だから。」
囁く言葉の柔らかさははちきれんばかりの心に脆く染みていく。
まるでシミのようにじんわりと広がって、でもその度に温もりも広がっていく。
不思議だ・・・。
これは夢のはずなのに、こんなにも怖くて、こんなにも温かい。
私は私の耳を疑わなければいけないのに、
この世界を否定しなきゃいけないのに、
・・・抗えば抗おうとするほどにリアルをましてゆく。
倒れたかなにかはしらないけれど、早く起き上がって本を読んでるイーディスを呼びにいかなくちゃ、時間がない。
私は自分の視界がぐにゃりと歪んだ後から今日までのこのことを少し思い返していた。
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