◆第一章◆〈 燕雁 〉1

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 ラインストーンの下には、濃淡の異なる3色の糸により、茎や葉を表現した、刺繍が入れられている。   右手に下げた白いバックが、小気味よく前後に揺れる。    麻美は、駅に向かっていた。 だが、今歩いている道は、駅への最短ルートではない。  "もうすぐ、お花畑のお庭"  そう心の中で呟いた。    ごくごく、一般的な家屋が立ち並ぶ光景。  その中に、何の違和感もなく、ひっそりとたたずむ居酒屋がある。 右脇には、車6台分の駐車場。  少し古びた居酒屋は、周りの風景に、よく溶け込んでいる。  その居酒屋の前で足を止めた。  そして、その場で    "ぴょこん"と跳ねた。  ―――――――  幼少の頃、この場所には二階建の家があり、庭は、いつも几帳面に手入れされていた。   ある日、父親に抱かれて、大人の目線で庭を眺めた。  目に飛び込んできたのは、数種類の花々が織り成す、色彩のメロディーだった。    多くの昆虫が、花弁の艶やかさに魅了され、蜜を求めやってくる。  麻美も、花の色彩美に魅せられてしまったのだ。  一瞬で心を奪われ、大きく開いた目蓋は、瞬きすることを許されなかった。image=399558117.jpg
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