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ラインストーンの下には、濃淡の異なる3色の糸により、茎や葉を表現した、刺繍が入れられている。
右手に下げた白いバックが、小気味よく前後に揺れる。
麻美は、駅に向かっていた。
だが、今歩いている道は、駅への最短ルートではない。
"もうすぐ、お花畑のお庭"
そう心の中で呟いた。
ごくごく、一般的な家屋が立ち並ぶ光景。
その中に、何の違和感もなく、ひっそりとたたずむ居酒屋がある。
右脇には、車6台分の駐車場。
少し古びた居酒屋は、周りの風景に、よく溶け込んでいる。
その居酒屋の前で足を止めた。
そして、その場で
"ぴょこん"と跳ねた。
―――――――
幼少の頃、この場所には二階建の家があり、庭は、いつも几帳面に手入れされていた。
ある日、父親に抱かれて、大人の目線で庭を眺めた。
目に飛び込んできたのは、数種類の花々が織り成す、色彩のメロディーだった。
多くの昆虫が、花弁の艶やかさに魅了され、蜜を求めやってくる。
麻美も、花の色彩美に魅せられてしまったのだ。
一瞬で心を奪われ、大きく開いた目蓋は、瞬きすることを許されなかった。
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