◆第一章◆〈 燕雁 〉1

4/6
前へ
/152ページ
次へ
 記憶の中に、強烈な焼印を押され、決して忘れることのない光景となった。  麻美は、この庭を、  "お花畑のお庭"と、名付けた。  初めて独りで訪れた日のことだった。  この家には、石を積み上げた造りの塀があった。  ブロック塀とは異なる、確かな品格があり、"塀"というよりは、"石垣"という言葉が先に頭に浮かぶ。  この塀の高さは、中学生程度であれば、見通すには何ら弊害はない。  しかし、幼い少女にとっては、立ちはだかる難関以外の何物でもない。  門の近くには、雑種の中型犬が繋がれており、近づく者を拒んだ。  少し吠えただけで、少女にとっては、十分な恐怖に値した。  仕方なく、塀の外から "ぴょんぴょん"跳ねてみた。  遠く及ばなかった。  幼心にも結果は分かっていたが、そうする事しか出来なかった。  屋根の上の小鳥、塀の上を歩く猫が羨ましかった。    諦めて家に帰った。  2日間後、家の物置から金属性のバケツを持参した。  バケツをひっくり返し、踏み台にしようと考えたのだ。  家からは、約200メートルの道程。 自分で運べて、踏み台になるものとして、バケツを選んだ。image=399558237.jpg
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加