◆第一章◆〈 燕雁 〉1

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 バケツと言えど、持ち運びするには、体力的に楽ではなかった。  額の汗を手で拭い、息を整え、ひっくり返したバケツに上がった。    苦肉の策ではあったが、少女の目線は、塀を越えられなかった。  その場で跳ねてみたが、結果は変わらない。  何度も何度も跳ねた。  挙げ句、着地の際、バランスを崩し、バケツごと転んだ。  涙が出た。  体の痛みではなく、別の痛みで涙が出た。  その様子を見守る、二人の老人がいた。  買い物から帰宅した、この家の老夫婦だ。  最初は不審に思っていたが、何となく状況を理解した夫婦は、麻美に声を掛けた。  そして、家に招き入れてくれた。  夫婦に宥められ、おとなしくなった番犬は、羨むような視線を送っていた。  よく冷えたサイダーを、ご馳走なり、美しい花々を間近で見て、そして触った。  嬉しくて嬉しくて、庭の中を跳ね回った。  楽しい時間は過ぎ、家に帰ることになった。  道を歩く麻美の右手には、皺枯れた、お婆さんの左手が優しく繋がれていた。  左横には、お爺さんが自転車を押して歩く。  ハンドルにはバケツが掛けられ、籠には鉢植えされた、美しい花。image=399147154.jpg
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