7人が本棚に入れています
本棚に追加
バケツと言えど、持ち運びするには、体力的に楽ではなかった。
額の汗を手で拭い、息を整え、ひっくり返したバケツに上がった。
苦肉の策ではあったが、少女の目線は、塀を越えられなかった。
その場で跳ねてみたが、結果は変わらない。
何度も何度も跳ねた。
挙げ句、着地の際、バランスを崩し、バケツごと転んだ。
涙が出た。
体の痛みではなく、別の痛みで涙が出た。
その様子を見守る、二人の老人がいた。
買い物から帰宅した、この家の老夫婦だ。
最初は不審に思っていたが、何となく状況を理解した夫婦は、麻美に声を掛けた。
そして、家に招き入れてくれた。
夫婦に宥められ、おとなしくなった番犬は、羨むような視線を送っていた。
よく冷えたサイダーを、ご馳走なり、美しい花々を間近で見て、そして触った。
嬉しくて嬉しくて、庭の中を跳ね回った。
楽しい時間は過ぎ、家に帰ることになった。
道を歩く麻美の右手には、皺枯れた、お婆さんの左手が優しく繋がれていた。
左横には、お爺さんが自転車を押して歩く。
ハンドルにはバケツが掛けられ、籠には鉢植えされた、美しい花。
最初のコメントを投稿しよう!