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「おー…懐かしー…。」
…すっかり夕方だし。
初詣って朝行くもんじゃないの?
小さなバスが停まったのはバス停が道の端に雑にポンと置いてある停留所。
しかもバスが停まりやすいように道路がへこんでて…なんて工夫は一切なく、バス停のすぐ向こうに民家の壁。降りたら壁とバスに挟まれる形になる。
昔、バスから降りてすぐ動いちゃ駄目!って言われたのを思い出した。
動けない。
危ない危ない。
轢かれる。
「こっちこっち。」
バスが完全に行ってしまうまで、ちょっとした恐怖を感じていたあたしとは対照的に、それすらも懐かしいのか、ちょっと嬉しそうな声でヒロさんが歩き始めた。
バス停からすぐ右に曲がり近くの路地へ。
…狭っ!
「これ車通れるんですか?!」
「軽トラならいけるよ。」
「ええぇぇ…チャレンジャー…。」
「普通普通。」
自転車でもココすれ違うのは、どっちかが遠慮しながらじゃないと難しそう…。
そんな道を迷わず歩き出すヒロさん。慌ててあたしは後を追う。
「どこまで行くの?」
「真っ直ぐ。あと5分くらい。あ、ここ友達ん家。」
「へぇ。」
路地は、昔は長屋だったんだろう、と言う事が予想出来るような並びだった。狭い道に左右に軒を並べる家々。それぞれにやたらと年季が入っていて古い。その並びの1つで、他の建物より新しい感じの家を指差して、ヒロさんが言った。
ヒロさんの、地元のお友達さんかぁ…。
「おっきい家だね。」
「うん。一回改装してさ、普通な家になってるけど、昔は井戸あってさー。そん中に祭りで取ってきた金魚入れとったりしててん。」
「今、井戸は?」
「知らーん。埋めたかもなぁ。飲まれへんしなぁ。」
「へぇ。」
「ま、今度聞いとくわ。」
そう言うと、何故か、ポンッと、あたしの頭を叩いて、ヒロさんは再びハキハキと歩きだした。
久しぶりの地元に、うきうきしてるみたい。
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