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ふと顔を上げてみれば。
珍しく大樹が口元を緩ませて笑っていた。
何となくバツが悪くて、ギロリと睨み上げる。
「……なに笑ってんだよ」
「だってお前がそんな風に悩むとこ初めて見たからさ」
「そんなことは、」
ない、と言いかけて止まる。
あれ、俺って今までどんな風に女の子と付き合ってたっけ。
片手で数えられるぐらいだけど、それなりに男女のお付き合いをこなしてきたハズなのに。
どうして俺は今さら初めての体験みたいに悩んでるんだ?
「……んん?」
「ま、お前には良い傾向だよ。これも経験だ、存分に悩んどけ」
「何だよ、それ」
まるで他人事みたいな言い草だ。
……丸っきり他人事だけどさ。
頬杖をついてハァ、と溜め息を洩らす。
過去のことはもういいや。
だって何の参考になりそうにないし。
それより問題は現在について、だ。
何とか現状を打破したい。
このままじゃ永久に肩書きだけの恋人で終わってしまう気がする。
「……いっそ目標を作ってみるのはどうだ?」
「へぇ、聖にしては良い考えだな。で、具体的には?」
「一緒に下校とか!」
「どんだけ小規模な願望だよ」
うるせぇ。
こっちはこれでも切実なんだよ!
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