おとろし

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またある日には、立派な身なりをした男が 家来を従えて訪ねてきた。 男はにこにこと手を擦りながら、 是非私どもの国へと来てはくれませんか、 と言った。 強くて怖いもの知らずのあなたが 来てくれたら、我が国は安泰です。 立派な家に沢山の召使も用意しましょう、 毎日おいしいものを食べ放題です、 ただ時々お願いしたときに、他の国に 行って暴れてくれればそれだけで結構です。 後は好きなように過ごせますよ。 黙って話を聞いていたおとろしはぽつりと、 お前の国で暴れるのもいいのか、 と呟いた。 男はさっと顔を青くした。 ひきつる笑顔でまた来ます、と言い残し、 家来を連れてそそくさと男は帰っていった。 それから二度と男はやってこなかった。
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