【笑顔】

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「君はいつもいつも何を読んでいるんだい」 と、エヌ氏は問いかける。 「LIFE BOOKだ。 君も知らない訳じゃ無いだろう」 「ああ、知っているとも。 私はまだ一冊目の半分も読んでいないがね」 エヌ氏が皮肉を込めてそう言うと、 いつも通りのコーヒーが運ばれてきた。 彼はそれを熱いうちに一口流し込み、続けた。 「こんな分厚いだけの本のお陰で社会が成り立ってると思うと、 自分が情けなく思えるね全く」 「そんなことを言うもんじゃない。 実際、犯罪は減ったんだ。 それでいいじゃないか」 「……ああ」 LIFE BOOKとは我々が成人した時に贈られる、 人の人生を綴った分厚い本のことだ。 とは言え、自分の人生を諭すような内容が書かれているわけではない。 この本には、他人の人生が書かれている。 それが過去なのか、 未来なのか、 今なのか。 そしてどこの誰のことなのか。 それは誰にも分からない。 しかし、分からないからこそ、 大衆を常に自分が誰かに監視されているという状況におくことで、 犯罪を抑制しようというモノらしい。 当然、プライバシーや個人情報などという論争もあったが、 この制度が導入され社会は目に見えて明るくなった。 それだけ皆、今まで見られていないと思って好き勝手にやっていた、 と言うことにはなるが…。 しかし、そんな意見は大衆の力に、すっかり揉み消されていた。
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