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ひどく暴力的な感情を胸に、
帰宅したエヌ氏は、特殊な機材をコンピュータに繋ぎながら言った。
「いいことを聞いた。
いっちょ その管理局のコンピュータをハッキングしてやろう。
そして、俺のLIFE BOOKを持ってる奴を探し出し、
それを手に入れよう」
エヌ氏はこの制度に疑問を感じていた。
この本に書かれている人物は本当にいるのか。
自分の本を持っている奴なんて存在するのか、と。
彼は技術を持っていたが、管理局のコンピュータに接続することはそうたやすくは無かった。
そこに至るまでに、リビングの壁に掛かる丸時計は軽く一周してしまっていた。
早朝から作業を始めたのに関わらず、昼になり、夜になり、
やがて彼がいつもコーヒーを飲みに行く時間になっていた。
そして、ようやく彼はその中からリストらしきものを見つけた。
「本当にあったぞ。
あ、エフの名前だ」
自分の名前があるという確証を得た彼は「自分探し」に熱中し、やがてそれを見つけ出した。
本の持ち主は街の青年で、更に彼はそのLIFE BOOKをきちんと読んでいたのだ。
先月貰ってきたので17冊目。
知らない青年だったが、彼のLIFE BOOKを閲覧することで彼が今どこにいるか簡単に知ることができた。
自分のLIFE BOOKを閲覧しようかとも考えたが、
それでは余りに面白くない。
やはり、紙の本でないと。
「なんだ、いつものカフェじゃないか。
こんなに近くに私の人生を持っている人がいたとは」
エヌ氏は消えそうな声でそう呟くと、何かに憑かれたように走り出した。
リビングの窓の外では風で舞い上がった落ち葉たちが、
重力に逆らえず墜ちようとしていた。
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