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裸足のまま玄関を飛び出し、肌寒い秋の朝の街道を駆け抜ける。
朝の静かな街に、自分の呼吸音だけが妙に大きく聞こえている。
彼は寒さも忘れ、必死になって
いつも訪れるお気に入りのカフェへと向かった。
あと一本、道路を挟んだ所まで辿り着いた彼は、
テラス席に座る一人の青年を見つけた。
リストで見た、青年だ。
分厚いコートを羽織り、落ち着いた色のマフラーを巻く青年はコーヒーを傍らに、分厚い本を広げていた。
エヌ氏には、それが自分のLIFE BOOKであるとすぐに理解できた。
そして彼の中の好奇心は、音を立てて弾けた。
通りへと駆け出すエヌ氏。
中腹まで来たところで、
青年が飲むコーヒーの香りが朝の風に乗ってエヌ氏に届いた。
酸味のある、コナコーヒーの香りだった。
しかし、その香りは秋の朝の空気に孕むことなく、
ガソリンの匂いに掻き消される。
その瞬間、カフェで一人、
コーヒーを楽しむ青年の口元が緩んだように見えた。
分厚い本を勢いよく閉じた青年の表情には、
なにか大きな事を成し遂げた時の
あの独特な笑みが・・・。
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