<会社員1>

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 警察の世話にだけはなるなよ。  父親にいつも言われていた言葉を、警察官の声を聞きながら河原はぼんやりと思い出していた。 「すいません、呼び出しちゃって」  小宮のあまりの気楽さに、溜め息が出そうになる。  河原と小宮は大型レコード店の事務所にいた。部屋の中にいるのは河原たち二人の他に、店長、現場に居合わせた店員、そして警察官が二人である。二人の警官は半笑いで、職務怠慢ではないか、と言いたくなる。 「盗ったのはこれで全部なんですね」  店長が隣の小宮に確認すると、小宮はこくり、とうなずいた。  数分前、事務所にやって来た河原に向かって小宮は「河原さん、万引きしちゃいました」と大胆にも微笑みかけた。笑い事じゃない、と言ってやると小宮は、それは分かってますけど、と気まずそうに顔を歪めた。 「今回は厳重注意で済ませますが、次は無いですからね」と言う警官の声には多少の親しみさえこもっている。恐らくは小宮の人柄の良さが伝わったのだろう。こんなにあっさりとして良いのか、と河原は呆れた。 「ありがとうございます。申し訳ありませんでした。ほら、お前も」と小宮に頭を下げさせる。 「すいませんでしたー」  小宮の能天気な声が部屋に響いた。
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