序章

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 セリフは気丈。でも、声だけはどうしようもなくつらそうだった。 「さよなら」  そうつぶやいて、着物姿のその人は『ぼく』の額を人差し指でつついた。瞬間金色の光がぼくを包み、すぐに消えた。すると、ぼくを襲ったのはどうしようもないほどの吸い魔だった。  そんな『ぼく』の様子を確認すると、彼女はくるっと踵(きびす)を返して天に向かって雄たけびをあげた。  頭に天を衝くかのごとく生えた二本の角。金色に輝く角を揺らし、その人は灼熱の炎に飛び込んでいった。  その後に起きたことは、きっとすべてを見おろしていた蒼くきらめく月だけが知っている――
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