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部屋の前のインターホンを再び鳴らす。
ガチャガチャ、と鍵を開ける音。
そして、ドアの隙間からのぞく、彼女の顔。
「お疲れさま」
シンプルな部屋着姿の彼女が、微笑みかけてくれた。
嬉しいのに、俺の口からは素っ気ない言葉しか出ない。
「おー」
中に入って靴を脱ぎ、部屋へと戻る彼女の後ろを追う。
今日は髪を束ねているのか。
見え隠れするうなじが、妙に扇情的だと思った。
部屋の中は暖房が効いていて、寒さに固まっていた体がほどけていくのがわかる。
「寒かった?」
ハンガーを手に取りながら彼女が尋ねる。
上着をかけてくれるんだろう。
「おー」
脱いだ上着を手渡すと、サッと受け取ってくれた。
慣れた所作に胸が弾む。
これが、俺のためだけだったら、と期待しそうになってすぐに打ち消す。
そんなわけ、ないだろ。
馬鹿な自分を自覚しながら、手に持っていたコンビニの袋を差し出す。
「これ」
「あ、ありがとー」
彼女が中を見て、にっこり笑う。
「お、ちゃんとビールじゃん。リッチだねー」
いつものことだろ、と思いながらも顔は緩む。
彼女が笑ってくれるなら、こんなの安いもんだ。
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