悪い、肌。side M.

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  すぐ傍に、人の気配を感じた。 彼女が戻って来たようだ。 テーブルの上に並んでいたコースターの上に、グラスを乗せる。 コースターとか、普通あんまり置いてないよな、と思いながらその動きを見守った。 俺より小さい手が、器用にビールのプルタブを開ける。 小気味いい音。 そして、グラスに注がれる泡。 むくりと起き上がり、それを手に取った。 笑顔のままの彼女も同じように手に取って、こっちを向いた。 「かんぱーい」 「おー」 カチン、と控えめな音をさせて、グラスを合わせた。 そのまま、ビールを口へ運ぶ。 「…っあー、おいしっ」 「…おー」 どう見ても女なのに、絞り出した声はオッサンみたいだと思う。 とはいえ、その感想には同意。 俺も一口目のあの味は、やっぱり好きだ。 何を話すでもなく、ただ横でビールを飲んでいる。 そんな何でもない時間を一緒に過ごせることがとても嬉しかった。  
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