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「ふう…」
誰もいない自分のテリトリーに入ると
気だるそうに黒いレザーの椅子に腰掛け眼鏡を外し、目頭を押さえる。
5時間程前にこの部屋から解放されたばかりだというのに
2時間の仮眠だけで戻ってきたので相当つらそうだ。
この男
望月 真司(モチヅキ シンジ)
35歳 独身
数々の事業を展開する望月グループの代表取締役。
1年前までは父親である前社長の命により
社長に必要なスキルを積むためにロスの支社にいた。
帰国し代表取締役に就任してからは、望月グループを拡大するために
難しい書類に目を通したり、とてつもなく忙しい日々を送っている。
普通なら社長という立場の者は、真司のように毎日徹夜などしなくてもよいものだが…
そこが真司の悩みのひとつでもある。
会長とは名ばかりで、隠居のようなのんびりした生活を送っている
父、浩司(コウジ)にも口酸っぱく言われている事…
「社長たるもの、相応しいだけの余裕と貫禄がないといかん。
秘書課の者達もいるが、お前も1人専属秘書をつけてサポートしてもらわねば、
自分1人でなにもかもはできんのだよ。」
その言葉が頭に響き、男は小さくため息をはいた。
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