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隠れ里には妖怪が帰っていた。
人間が居るからといって取り立てて騒ぐこともなく、いつもの生活を取り戻しているようだ。
「なんだか、組合の存在を知る前のことを思い出すねぇ。僕と皐月二人で妖怪に会いに行くだなんて」
「ちょっといろいろありすぎて、ほんと大昔のように感じます」
百々目鬼や小袖の手、文車妖妃の楓に会った後は日本妖怪組合に半ば強制的に組み込まれ…今では立派に妖怪の間で有名人。
ほんの数年の間に起こったとは思えないほどの妖怪騒動、目を閉じのほほんと懐かしく思い出す。
そして改めて、今から会いに行く大妖怪、九尾の狐を思った。
なんだかとても大きな仕事がもうすぐ終わってしまうことに少しの寂しさを感じる。
「樹には本来人間は近づけないらしいが…大丈夫なのかな」
「きっと大丈夫ですよぉ。ぬらりひょんさんから御守りも貰いましたし」
御守り…とはいうが、どう見てもそれは紙風船。
直径五センチくらいの小さなものである。
これをどう使えば御守りになると言うのだろうか。
「九尾の狐がどんな状態かさっぱりだが…幻術の家にいた時に話をした感じなら大丈夫だろう」
話はできる。
限りなく平行線ではあるが、時間をかければ少しは変わるだろうと柾はのんびり思った。
一時間ほど、子供河童の気まぐれな案内などを受けながら歩くと、真っ白な幹に青紫の葉を茂らせる、とてつもなく大きな樹にたどり着いた。
沢山の木が融合しているのか、幹の太さは立派なビルを思わせるほどである。
近づこうとすると、綿のような感触に阻まれた。
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