百々目鬼

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 五メートルは飛んだ。  木にぶつかり止まったのだが、障害がなければもっと飛んだだろう。  柾はそんな力を入れたようには見えなかった。  動かぬ男に皐月は駆け寄り、やりすぎだーと柾を非難した。  ふむ、と頭を少しかきながらゆっくり近づく。  男の喉元には筆の柄が突き刺さっていた。 「うわーんセンセーが殺人者だー」 「縁起でもない」  笑いながら柾は筆と紙を取り、男を揺さぶり起こした。 「こんなとこで寝てないで、さっさと財布返してきなさい、ね」  ぽんぽんと男の頭を撫で、柾はさっさと帰る準備を始めた。 「あの人、大丈夫なんですかぁ?」 「風邪は引かないでしょ」  柾はもう興味なしとばかり に、先ほど描いた絵を眺めて満足そうに微笑んだ。  目玉が沢山憑いた、彼の絵だった。  絵の中の目玉が、恨めしそうに瞬きをした。
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