飛縁魔

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 町外れの屋敷、その中でも一番大きな部屋を占領した画廊。  一人の若い画家がシンプルな木の椅子に座っている。  画家、柾は和綴じに纏めた物を見ながら、過ぎた日を辿る。  開かれた頁には「飛縁魔」と題した絵。  この画集の第一作目となり、同時に何とも悲惨な事件の記録ともなった。  そこにはただ、菩薩のように柔和な笑顔を浮かべた女性が、両の手に嫉妬や憤怒、欲望の炎を浮かべ、周囲の物を焼き尽くしている様が描かれているだけである。  しかし、きっとこの先幾年経ようとも、この絵を見ればあの惨劇が…まるで今目の前で起こっているかのように、柾には細かく思い出される事であろう。 「コイツが…八人喰らった」  八人も…と柾は呟く。  もっと早く、そして手際よくやれたら、被害は少なかったのだろうに、と。  絵を日光から守る為の遮光カーテン、その向こうにいるであろう人物を思い描く。 「皐月、ごめんね…」  届かないと分かっていても…。
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