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その晩、柾が珍しく筆を持ち絵を描こうとした時の事、外から複数の声が響いた。
どうやらうちの前らしく無視していられない。
のろのろと外へ出てみれば、一人の男が警官二人に取り押さえられていた。
話を聞けば、放火される寸前だったらしい。
男はしきりと意味不明な事を譫言のように繰り返す。
近付くから。
邪魔。
焼き殺す…。
男は警官に引き摺られ、夜道の先へと消えていった。
それからは、何かと火気にやられる事が増えていった。
コンロで火柱が上がり、火事の現場に遭遇し、人通り多い場所で煙草の火に服を焦がされる。
そして、そういう事故は必ず先に、熱気を含む風が吹いてくるのだ。
例えソレが密室だったとしても。
危険を察知し事なきを得ると、今度は恨みがましい視線を感じる。
周囲を見回しても其れらしい人物の影はなく、だが確実に日に日に強くなるのだ。
そんなある日、滅多にならぬチャイムが屋敷に響き渡る。
出てみれば、そこにはあの少年がいた。
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