百々目鬼

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 町外れにある大きな屋敷、一人の画家が画廊に閉じ篭もっている。  画廊には沢山のコレクションがあり、そのコレクションに埋もれて茶を飲むのがこの画家の癒し時間なのだ。 「センセ生きてますかー?」  コンコンと高いノック音、扉が開いた。  そこには一人の男子学生がいて、まだ着慣れていない感じのするブレザーの制服がふわりと翻る。 「…まーたきたか、ほら開けっ放しにしない、大事な物が傷むだろう」 「はいはーい、今日はジャスミンでーすかー?」  癖のある間延びした声と、ぱたんと静かに閉まる扉。  元々色素が薄いのだろう、日の光でミルクチョコレートのような甘い色合いに輝く髪、あまり高くない背丈がよけいに子供っぽく見せる。 「皐月も飲みたければ湯呑みを持って…序でに湯も持ってきてくれ」  画家は空になった魔法瓶を振りながら、学生を見ずに差し出す。  口を尖らせながらも魔法瓶を持って出ていく皐月の後ろ姿を見、画家はほんわか笑った。
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