百々目鬼

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 この屋敷の主人は近所で評判の変わり者である。  「柾(まさき)」という名で通っており、二十六という何とも若い独り者。  高校を中退し部屋に引篭もり、五年ばかり両親ともまともに話をしない期間が続く。  その後、まるで「三年寝太郎」のようにふらりと出てきて、もの凄い勢いで絵を描きだしたのだ。  その絵はこの世のようであり、ファンタジーのようであり、地獄にも天国にも見えるなんとも奇妙なものであった。  それは三枚の絵を並べて漸く一つの絵となる。  何故一枚にしなかったのかと問われた時、彼は「一つにしたらこの世に出てきちゃうから」とにへれと笑い言ったという。  そして、その絵は今やかなりの高額となっている、らしい。  らしいというのは本人が売る気がないからである。  それぞれバラバラに布をかけた状態で保管され、それ以外に描いた物を気まぐれに売って生活しているのだ。
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