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「は~い、刺身盛り合わせ二人前です。醤油はこちらをご利用下さいっ」
お互いワサビを取り醤油に溶かす。
「今のコ、可愛くなかった?」
視線は醤油皿のまま杉田が言う。
ふーん、という程度のリアクションで流す。イカ、イカ、イカが好きなんだよなぁ。
「そうだったな、渥美は昔っからああいう『カワイイ系』には興味ねぇもんな、バカっぽく見えるってんだろ、ハイハイ」
杉田はヒラメをひょいとつまむ。
「そういや、最近アメリカがえらく調子悪いじゃん。
前年比、、70%とかだっけ?へたすりゃ大島部長、飛ばされるんじゃないの?」
突如杉田が目を細め、いたずらっぽく周囲を見渡す。
「実は、もうその話が出てる。さっき言ってた人事の話ってやつさ」
「あ、ビール頼むか?」
すいません生2つ、と先ほどのカワイイ系女子に伝える。
「まぁ、当たり前っちゃ当たり前だよね。で後釜、どうなるの?」
「そうね、とりあえず営業部長には沢木さんが入るとして、それはいいんだけど、問題はどうやら同時に北米の駐在員も入れ替えるっぽいんだよ」
「ほー、チャンスじゃん。お前、昔から行きたがってただろ?アメリカ」
「今は状況が悪いよ。もう、はっきり言って悪過ぎ。
アメリカ経済自体が暗~いし、消費全体が落ち込んでる。こんな状況じゃあ行かされる方が不幸だぜ」
「つっても状況が悪いってことはチャンスでもあるんじゃない」
「まぁね、ここで成功すれば、って意味だろ?そりゃわかる。わかるさ。
それに、ま、厳しい状況の方がやりがいはあるとおれは思ってるけどな」
「お前ってそういう危険なところに突っ込み続けて今があるじゃない」おれはケラケラと嫌み無く笑った。
杉田は追加で来たジョッキを受け取りながら、まぁな、と苦い顔をしてみせる。
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