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剣十郎は虐待を受けた後はいつもある場所に向かっていく。
その場所は巨木の上。
すぐ横に壮大な滝が見え、目の前には地平線の奥まで途絶えることのない広大な森。
その昔、日本と呼ばれたのこの地はこうした隆起地形の多いことで有名だった。
その中でもここは、剣十郎しか知らない抜群の絶景ポイント。『穴場』だった。
剣十郎はそうした風景がとても好きだった。
「・・・」
剣十郎は無口だ。
父は厳格で多忙なため剣の稽古の時間しか顔を見せないし
次男やその母は剣十郎をまるで家畜のように扱う。
唯一の話し相手であった母も、数年前に他界してしまった。
しゃべりたくとも、話をしたくとも、その相手がいなかったのである。
「!」
しばらくその絶景を見ていた剣十郎だったが何かに気づいたように地面に降り立つ。
剣十郎は付近に人の気配を感じた。
この山一帯の気配を感じることなど剣十郎にしてみれば造作もないことだった。
しかしこのあたり一面は御剣家の私有地だ。
だがこの気配は御剣家の人間の気配ではない。
全部で3人・・・かなりのスピードで移動している。
「・・・」
剣十郎はその気配のするほうに駆けていった。
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