無貌の保護者

15/39
前へ
/111ページ
次へ
 さて、と彼は言葉を区切る。この場が一瞬で引き締まったような気がした。本題に入るのだ、と僕は悟る。 「……無駄話はこれぐらいにしよう。もう気付いていると思うが、ここは病院だ。正確には『福島記念病院』だがね、君はそこの一室に在るベッドに横になっている。ここまでは良いね?」  僕は無言で頷いた。 「よし。それではまず君の名前を教えてくれ。いつまでも“君”じゃ勝手が悪い」  まず、と僕は呟く。まず? 僕にはその“まず”が答える事が出来ないのだ。どうしたものか、一瞬だけ偽名で答えようとも思ったが、止しておいた。後からややこしくなるのが目に見えていたからだ。  
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加