無貌の保護者

16/39
前へ
/111ページ
次へ
 判らない、と僕は答えた。それ以外の言葉は思い浮かびもしなかった。 「判らない? それは答えたくないという意味か?」 と彼の表情が険しくなる。 「違うんです」 と僕は慌てて弁解した。「言いづらいんだけど、本当に自分の名前が思い出せないんです。何て言うのか…そう、記憶喪失かもしれない」 「記憶喪失? ハッ、本気か? なら君は、何故自分がこのベッドに寝ているのかも判らないと?」 「つまり、そういう事らしいです」  ……彼は何も言わない。ただ黙って僕を見つめ、溜息を吐く。  
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加