無貌の保護者

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 病室を訪ねてくる刑事もいた(職員の誰かが、あるいは福島先生が通報したのだろう)。二人組の、それぞれが疑いの眼差しを隠そうともしない男達だった。  彼等は本当に僕が記憶喪失かどうかを根掘り葉掘り聞き出そうとしたが、もしそんな尋問で失われた記憶が取り戻せるならば医者は要らないだろう、といった成果しかあがらなかった。つまり、無い袖は振れないのだ。  彼等も職務上、簡単にさじを投げるわけもいかないようで(僕を家出少年か、虚言癖の自殺者だと思っているらしい)、数時間を病室で粘った後に「また来ます」 と言って、部屋を後にしていった。刑事も大変だな、と僕は他人事のように思って彼等を見送った。  
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