無貌の保護者

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 不意に“場面”が切り替わった。僕は街の雑踏に中にいた。闇は何処にも見当たらず、多くの人間が僕と同じ方向に向かって歩いていた。だが、その顔には目も、口も、鼻も、髪の毛もない。何もない。“在る”のは彼達(あるいは彼女達)の足音と、道路を走る自動車の騒音だけ。  その内のひとつ、目の前を過ぎていくタクシーの運転手が視界に入る。のっぺらぼうの運転手。  何故か僕には、彼達(あるいは彼女達)が何を喋っているのかが、手に取るように理解出来た。声も聴こえないのに、どうしてだか理解出来るのだ。奇妙な感覚だった。  
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