無貌の保護者

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 足音が離れていき、沈黙が訪れた。どうやら声の主は、僕の側から離れていったらしかった。そこで僕はまたある事に気付いた。  微かな鼻につく消毒液の匂い、ここは病院だ。声の主の足音も室内用スリッパらしかったのだ。彼は医者なのかもしれない。  ――僕の意識にまたも“もや”が掛かりだす。取り敢えずは命の保証はしてもらえた、何よりここが病院なのだ、という概念で少し安心したのかもしれない。  意識が遠のいていく。睡魔が暴力的に僕を支配する。何故だかほんの少し溜め息が洩れたが、その意味を理解するには、僕には体力も記憶も足りないようだった。  
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