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「…怖いんだ。人と触れ合うこと……私、好きになった人……全員、居なくなっちゃうんだ」
思わぬところで、明子のことを聞き出せることに将吾は息を呑む。
「昔からそうだったかも…気付いたのは、パパだったけど……昔から、大親友だった友達が急に転校したり……してた。でも、パパは…私を置いて……ううん、私達を。自殺したの」
ポロポロと涙を流す明子の手を将吾は、ギュッと握り返す。
「……パパは、アルツハイマーだったの。段々と、記憶がなくなっていくのを…私達は、悲しくて…顔に出ていたんだと思うの。だから、パパはそれが悲しくて…自殺したの。自分のことは、忘れてくださいだって……覚えている内に…死ぬから…とか……卑怯だと、思わない? それが、悔しいし…なんだか、馬鹿らしくなった。きっと、凄く辛かったとおもう…だけど、それに気付けなくて……私が、馬鹿だからだよね」
「五十嵐……」
「……だから、先生のことすきになっちゃいけないんだよ」
泣きながら将吾の手を離し、頭を下げる明子に将吾は歯を食いしばり自分の胸に引き寄せる。
「せんせ…」
「馬鹿が…俺にこの気持を忘れろと言うのか……?」
「え…」
「…忘れられる気持ちが、分かるんだろ? だったら、俺に好きと言え」
「えぇ?」
「好きと言ったら、お前を絶対離さないし…イヤだと言われても、ずっと一緒にいる」
「……それって、どっちを言っても一緒にいるって意味だよね…?」
「…だから、俺がお前から離れることなんてないんだよ。分かれ、馬鹿」
「プ、プロポーズ…?」
「……身分を弁えろ」
「す、すんません…って! 今、超シリアスなシーンだったよね…」
将吾は、にっこりと微笑み耳元で囁く。
「好きって、言ったら今までに体験したことのないような快感を与えてやるよ」
その言葉に、明子は頬を染め俯く。
「い、言えません…」
「……ふーん」
つまらなそうに呟き、パッと明子から手を離すと明子は残念そうな顔をする。
――…本当、分かりやす……でも、我慢だ。
俺は、大人…大人。まず、第一に先生だぞ。うん。
変に自分に納得をさせ、一人頷いていると明子が何か思いついたのかポンッと手を叩いた。
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