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無茶苦茶に殴られ、部屋に帰るとエプロン姿のあの愛人が仁を出迎えた。
「おかえりー。って、どうしたのそれ?」
「……誰、待ってたの?」
「もぅ…仁君に、決まってるでしょ?」
甘えた声で鳴く愛人に、仁は今までに貰っていたお金を愛人に渡した。
「……何?」
「もう、やめようよ。いつまで待っても…もう、振り向いて貰えないから」
その言葉は、自分にも当てた言葉だった。愛人は顔を真っ赤にさせ、仁を平手打ちする。
「違うよ! 私は、仁君のこと…」
「俺に、親父を重ねてるの知ってるんだよ!」
そう一喝すると、もう一度愛人は仁に平手打ちを食らわすと握らされたお金を仁にぶつけ部屋から出て行った。
「…あーあ……お金を大事にしろよ」
落ちたお金を拾い、まとめるとテーブルの上に置いた。テーブルには、その愛人が作ったであろう料理が並んでいる。
「……全部、親父の好きなもの…俺も、好きだと思っているのが馬鹿だって」
フッと笑い、その料理を一口食べる。
「……でも、好きな味…かもな…」
小さく笑い、それを黙々と食べる仁。
――…これで、俺もあの人も解放された……お互い、慰めあっていた……んだ。
お互い、未来へ進まなきゃいけないんだよな……。
将吾に殴られた痛みで食べるのに苦しみながら、仁は食べ続けた。
――…明日は、学校行こう。
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