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昔から俺はヒドい雨男だった。
基本装備が傘なんて当たり前で
何回も置き傘しては
生徒指導室に呼ばれ
お天気お姉さんの
『午後は晴れる模様ですっ』
なんていう笑顔に何度騙されたか
いやお天気お姉さんも神じゃないからね。
きっとこの地方では降ってないんだよ。
俺の周りだけどしゃ降りなのさ。
なにか言われた時の
水も滴るいい男ですよ先生!という切り返しにも飽きてきた
急遽バスで帰ることにして、駆け込んだ雨宿りのバス停
隣には、大人の男性が一人立っていた。
(あー…あ。サイテー)
バックの中で濡れた
プリントに鬱になる
雨を楽しんだのは
せいぜい小学校までだったなぁ、なんて回想に浸っていた
『雨だね』
『…です、ね』
びっくりした。
まさか声をかけられるとは思わなくて、彼を凝視してしまった。
『学生さんか。びしょ濡れじゃん』
『はぁ…』
『ここで俺が紳士だったらタオルを黙って差し出すんだけど、あいにくそんな甲斐性がなくて』
『いや…申し訳なくて使えないです』
『そか、ならよかった紳士じゃなくて』
『いや、人間的には紳士のがいいかと』
『紳士という名のドM協会があるって知ってる?』
『……』
この人は何の話がしたいのか。
呆れ顔が露骨に出てしまったのか、彼はくははっと吹き出した。
『雨って鬱になるけど、』
くわえたタバコを手に持ち替え、いきなり彼は顔を歪めて笑った
『悪くないよね』
視線は、降り続ける雨に向いていた
『……そうですね』
さっきまで全否定していた雨を俺は何故か肯定していた。
理由は、きっと。
(全身からちょっとごみまじりの水滴を滴らせる
明らかに雨の被害者のその男が
雨を肯定する様が、
あまりに格好良かったから。)
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