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その台は釘が甘いわけでもなく、回り具合は中の下ぐらい。
可もなく不可もなくと言ったところだ。
そこから二回、確変を引き、連チャンはストップした。
「…確か、確変が止まったら5分待てって言われたなぁ」
高橋は真面目で信じやすい性格である。
律儀に男が言った通り、確変終了後から時計で5分待った。
ドル箱は今14箱。
一箱換金して、約五千円と計算しても約九万にはなる。
その七割だから、労せずに六万は手に入る計算だ。
金庫のお金に手をつけることなく、また今の職場で働けそうである。
歓喜のあまり、涙がにじむ。
そう考えていると、あっという間に5分が経過した。
すぐさま打ち出し、時短が半分経過したその時だった。
「あっ!!」
画面を見ると、プレミア演出。
高橋が代打ちしている台は、メジャー機種「海物語」
赤い魚群が横切り、またまた確変をゲットした。
ドル箱はまた増える一方で、最終的に23箱まで伸びた。
閉店時間が近づき、アナウンスでお知らせが流れはじめた。
「あの人、どうしたんだろう…」
自分を救ってくれたあの男を裏切ることは出来ない。
閉店まで後5分ぐらいはあるだろうか?
店員が高橋に終わりを告げにきた。
「お客様、閉店のお時間ですので…」
「ちょ、後5分あるじゃないですか!!」
大当り中でもなく、ましてや時短さえも抜けた状態で、終わらないなんて普通ならありえない。
店員は首を傾げながら、違う客のほうへ行ってしまった。
「何してんだよ。早くきてくれよ」
一般論で言えば、見知らぬ男から引き継いだこの出玉。
知らぬふりして、換金し自分の物にしてしまえばいいのだ。
だが、高橋には出来なかった。
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