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残り時間が本当に数十秒まできたその時、男は高橋の前に現れた。
「悪いな。少しばかり、てこずっちまって」
高橋は涙を拭いながら、男の到着を喜んだ。
「遅いじゃないですか!心配しましたよ!!」
高橋は男に席を譲り、換金するよう促した。
「…う~ん。いいや。やるよ」
「…え?そ、それは無理ですよ!?こんなにいただけません!」
男は高橋の肩に腕を回すと耳元で話した。
「ていうか、俺は換金しづらいんだ。頼むから、お前が換金してくれ。表で待ってる」
高橋は言われた通り、玉を流し換金した。
現金で約12万。
高橋は男へ全額渡した。
「僕は変わりに途中から打っただけです。七割はもらえません。でも、お金に困っているのも事実で…だから、そこからお気持ちだけもらえれば幸いです」
男は笑いながら、現金全てを高橋に渡した。
「ハハハッ!だから、全部やるよ!お前さ、これから時間あるか?飯でもどうよ?」
高橋は少し戸惑ったが、恩人の誘いを断るわけにはいかなかった。
「それじゃ、ご飯はおごらせて下さい」
男は高橋を連れ、薄汚れた居酒屋へと入っていった。
「おっ!金ちゃん!どうだい?調子は?」
どうやら、男はお得意様らしい。
「おう!おっちゃん!俺はまぁまぁだ。おっちゃんのほうこそどうだい?あんまり熱くなるんじゃねぇぞ?」
居酒屋の亭主は照れ臭そうにしながら、親指を立て、奥へと消えていった。
高橋達は座敷に上がり、腰を下ろすと、とりあえず、生ビールを頼んだ。
高橋にとって何ヶ月ぶりかのビール。
あっという間に飲み干し、またもや嬉しさのあまり、涙をにじませる。
「ふ~ん。お前って面白いな。わかりやすくて」
男はニヤつきながら、高橋を見ていた。
「……嬉しいんです。僕、本当に苦しくて…」
堪えきれず、大量の涙を流し始めた。
「おいおい?勘弁してくれよ?俺は女は泣かせても男はちょっとなぁ」
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