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喧騒と陰影の狭間で過ぎる声、囁きはくすりと微笑に変わる、
近付いて、振り向いて、遠ざかり、纏わり付く存在だけ明らかに続く、
鏡を開いて、背後を映して、窺うのは偶像に囚われた自らの心、
足音は二重の響き、まやかしは消えずに、街灯が途切れ音が分かれる、
歩幅は同様、長く息を吐く、振り返り、その瞬間走り出す、
目が合った透明な何かと、見えた、或いは闇そのものが、
知らない、決して認められない、あれが幻、きっとそれこそ幻想に違いない、
帰り着く場所は程近く、しかし精神は限界へと足を踏み入れていく、
苛立ちを感じさせる気配を背に、白い息が絶え間なく口から洩れた、
永久にも思える逃走の終焉までは後少し、唯温もりと光を求めて走る、
ふと一つの疑問、唐突に足を緩めた、
敢えてゆっくりと、今更どうなろうと変わらないのだと気付く、
透明な微笑み、暗闇の化身は目前で顔を変え、足音は自らの影に吸い込まれた、
そうあれは自分自身、自らが作り出した心の具現、
疲れ果てた精神が見せた一時の逃避、失ってしまった輝きの欠片、
苛立ちは夢、微笑みは愛、陰と追走は現実、
遘えて塗れて閉じ込めた、回想から外れた真意、
舞い戻った答えをこの手に、ふいに笑みが零れて、
望んでいた世界が覗く、雲の切れ間から少しだけ、
視界を遮る闇はそのままに、朧げな月明かりが歩む先を照らし出していた……。
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