隣の君に、泣かないで

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陸くんが私の涙をぬぐう。 次々にこぼれてくるそれを、困ったような微笑みで受け止めてくれた。 「……俺……晴香を大切に思ってる」 「…………っ」 「思うだけでなく、大切にしたい」 「陸くん……」 「身体で繋がることがいけないって言うんじゃないよ。でも、まだそのときじゃないと思うんだ。 だって晴香はこんなに震えてて、俺だってすごく恐い。 それは俺たち2人に、まだ覚悟が出来てないからだよ」 「う……うう」 否定は出来なかった。 陸くんに全てを捧げたいという気持ちは嘘じゃない。 だけどそれは彼と離れてしまう不安から逃れたいという思いがあったからだ。 「晴香……、待っててくれないか? いつか君を本当に守れるようになるまで」 「う、で、でも……」 でも……寂しくて仕方ない。 陸くんが好きだと思えば思うほど、離れてしまう恐怖から逃れられなくなっていく。 陸くんは私の不安を見透かすように、穏やかな瞳でうなずいた。 「……じゃあさ、身体で繋がるんじゃなくて、違う形じゃダメかな」 「ち、違う形って……?」 「約束」 「え?」 陸くんが“少しだけ待ってて”と私の額にキスをして、部屋を出ていく。 そしてすぐに戻ってきた彼は、小さな箱を右手に握りしめていた。 「陸くん……」 「これ、晴香に……」 可愛らしいピンクのラッピング。 手のひらにチョコンと収まる小さな箱を、私は震える手で開けていった。 中から出てきたのは、紺色のやっぱり小さなケース。 そしてそれを開くと…… 「……え」 キラキラ輝く指輪。 ティアドロップ……雫型の小さなコハク色の石がついている。 「陸くん……こ、これ」 陸くんはケースから指輪を出すと、私の左手をとった。 ゆっくりと指輪が薬指にはめられる。 私の薬指で、涙の形の宝石がキラキラ光った。 「……晴香、結婚しよう」
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