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陸くんはサッカーで汗をかいたためか、服を着替えていた。
無地のシャツに、黒の上着。
彼らしい、少し大人っぽくてシンプルなコーディネートだ。
手には、おそらくお泊まりの用意が入ったカバン。
学生カバンより少しだけ大きいくらいで、あそこにお泊まり道具が全て入っているのが信じられない。
男の子って荷物少ないんだなあ。
「り、陸くんいらっしゃい……。どうぞ入って」
「うん。お邪魔します」
私はとりあえずリビングに陸くんを通した。
来客用のソファーをすすめる。
「あ、の、飲み物持ってくるね。何がいい?」
「いいよ。気を使わなくて」
「で、でも……」
「それより晴香も座って。俺、晴香と色々話したい」
優しい笑顔でそう言われたら、嫌だなんて言えない。
私は陸くんの向かいのソファーに腰をおろした。
「……陸くん。今日サッカーしてたけど、足の調子は大丈夫?」
「ああ、問題ないよ。一応自分でセーブしてるから」
「……カッコ良かった。すごく素敵だったよ」
「晴香……」
陸くんは照れ臭そうに顔を染めながら、微笑んだ。
「あんなのまだまだだって。俺、もっといいプレイが出来るようにこれから頑張るよ」
「うん……陸くんなら大丈夫だよ」
「ありがとう」
見つめあったまま、笑顔を交わす。
とても幸せで、穏やかな時間が流れていた。
さっきまで少し緊張していたのだけれど、今は平気。
陸くんへの恋のドキドキがすごく強くて、不安や緊張は小さくなっていた。
「……あ、そうだ。私、あとで晩ご飯の買い物に行くんだけど、陸くん食べたいものあるかな?」
「え。それって、晩メシ晴香が作ってくれるってこと?」
「う、うん、そのつもり……。あ、もしかしてピザとか取った方が嬉しい?」
「そんなわけないって! 晴香の手料理の方が嬉しいに決まってんじゃん!
……でも、いいのか? 大変じゃないか?」
「そんなことないよ。私、陸くんに食べてもらいたい。今まで、お菓子くらいしか作ってあげられなかったから」
「あ……お菓子……な」
なぜか陸くんが苦虫を噛み潰したような顔になった。
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