隣の君に、泣かないで

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7時半くらいに、晩ご飯が出来上がった。 今日は鶏の肉団子の入ったお鍋に挑戦。 カツオと昆布でダシをとった土鍋の中で、白菜やお豆腐、肉団子がグツグツと煮えている。 箸休めに筍の煮物も作ってみた。 3月の下旬。 お鍋はもう暑いかなーと思ったけれど、これは陸くんのリクエスト。 そんなわけで、彼の大好物のお餅まで投入されている。 珍しくスムーズに眠りから覚めた陸くんは、料理を見て嬉しそうに顔をほころばせた。 「わあ、すっげー美味そう! すごいな晴香!」 「そ、そうかな……」 陸くんの入院中、ほとんど毎日沢渡家の晩ご飯を作っていた私。 その積み重ねが役に立ったのかもしれない。 こんなに喜んでもらえて、ものすごく嬉しい。 「お、おかわりもあるから……。遠慮しないでね」 「あ、ありがとう……」 陸くんが顔を赤らめる。 私と同じことを考えているのかもしれない。 新婚さんみたい……なんて。 「あ、すっごい美味い!」 「ほ、本当!?」 「うん、マジマジ。晴香、本当に料理上手かったんだなー」 「そ、そんな……。で、でも“本当に”って……?」 「いや、父さんが晴香の料理は美味いっていうけど、俺は食ったことなかったからさ。今日、食えて本当に嬉しい」 「あ……ありがとう。私で良かったらいつでも作るよ」 そう言いながら、鶏団子を口に含む。 ちょっと薄味かな、とも思ったけど、陸くんはこれくらいが好きなのかもしれない。 「そうだな。また、こっちに帰ってきたら、晴香の料理食べたいな」 「陸くん……」 そうだ。 もうすぐ作りたくても作れなくなるんだ。 もっと色々作ってあげたかったのに。 作ってあげればよかった……。 「……晴香、お代わりもらえる?」 「え?」 私がシュンとしてしまったのに気づいたのだろうか。 陸くんがおわんを差し出してきた。 綺麗に空っぽになっている。 「……う、うん! あ、お餅入れるね」 「ありがとな。あ、2つほしい」 「…………お餅だけで、お腹一杯になっちゃうよ?」 陸くんの気遣いが愛しい。 そして、 …………寂しい。 .
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