隣の君に、泣かないで

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「え……?」 陸くんの言葉の意味がわからずに、彼を見つめ返す。 恐い……? 陸くんが……どうして? 「……晴香……。すごく綺麗だ。綺麗で、可愛い」 陸くんの手が私の頬をなぞり、首筋を伝う。 壊れやすいガラス細工を扱うかのように、彼は私に触れていく。 「晴香の全部が好きで、本当に何もかもが愛しいんだ。 晴香を全部、俺のものにしたい。俺だけのものにしてしまいたい」 「い……いいよ……! 私を陸くんの……ものに……して」 「そんなに震えてるのに?」 「……!」 陸くんは私を抱き上げて、ベッドの上に座らせた。 そのままギュッと抱き締めてくれる。 「晴香……無理しなくていいんだ。恐くて当然なんだから」 「あ……」 「だけど今の俺じゃ、そんな晴香の恐さを消してあげられない。 晴香のことがこんなにも好きで大切なのに。全てが大好きで、欲しいのに。君を守ってあげる自信がない。 今、晴香を抱いても、君を傷つけて壊してしまうだけな気がする。 だって今の俺は子供で、未熟で……自分のことで精一杯だから、君に優しくなんか出来ない」 「そ、それでもいいよ……。私、陸くんになら壊されてもいいんだよ。 だから……だから……っ……」 言いながら、目尻が熱くなってくるのを感じた。 胸がシクシクと痛む。 視界がにじみ、頬に熱い何かが伝う感覚がした。 「壊して。私を壊して、陸くんのものにしてよ……。 そうすれば、離れていても大丈夫だから……」 「やっぱり、離れるのが恐いのか。ゴメンな……」 「……ち、違う。陸くんにはやりたいことしてほしいの。私もやりたいことを見つけて頑張るもん。だから、陸くんの決意は嬉しかったよ。 で、でも……それとは別に証がほしい……の……っ。 は、離れていても、陸くんのことを感じていられるくらいの絆がほしい。 陸くんが隣にいるんだって思えるくらいの、強い思い出がほしいの……っ」 涙をこぼしながらまくしたてる私の背中を、陸くんがあやすように軽く叩く。 「……なあ、晴香。じゃあさ、今ここで俺が君を抱いたとして、それが“絆”になると思うか?」 「……え……?」 「俺は、そうは思わない」
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