隣の君に、泣かないで

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陸くんの退院が正式に決まってから、私はずっとかけることのなかったマヤちゃんの携帯番号を呼び出してコールしてみた。 だけど流れたのは、この番号は使われていないというアナウンスのみ。 番号を変えてしまったんだ……。 教えてもらえなかったのがとても悲しく、寂しかった。 「いつ変えたのかもわからない。私がもっと早く連絡しておけば良かったんだよね。 ……でも、やっぱり寂しいな。教えてほしかったかも。ま、マヤちゃん、私のこと忘れちゃったのかな」 「……晴香……」 「だから、ごめんね陸くん。マヤちゃんに会ってもらいたかったけど、無理みたい」 自分の声が暗く沈んでいるのがわかった。 ああ、私やっぱりショックだったんだ。 「……無理じゃないって。ちょっと未来に延びただけだよ」 「え……」 「番号の変更もさ、教えなかったんじゃなくて、教えられなかったのかもしれない。 例えば携帯が壊れたりして、晴香のデータが消えてたら、教えられないだろ?」 「それは……」 そうか。 そんな考え方も出来るのか。 「その子だって、晴香のことを今でも気にしているかもしれないよ。だって友達だったんだろう? 信じていれば、いつかまたきっと会えるよ」 「そうかな。……うん、きっとそうだね。陸くんに言われると、そんな気がしてきた……」 「うん。会えなくなったんじゃない。会うのが、少し先に延びただけ。 だから、俺との約束もまだ有効。 晴香が友達に会うとき、俺にも会わせてくれよな」 「うん……。約束がどんどん増えていくね。嬉しいな……」 「ああ。たくさん増やしていこう。そしてずっと一緒に守っていこうな」 「ありがとう。陸くん……大好き」 ささやかで小さい、だけど幸せな約束が積み重なる。 こうして私たちは未来に進んでいくんだ。 例えそばにいないときでも、人生という長い道で考えたとき、きっと私たちの歩みは隣り合っている。 あなたと並んで生きていく。 ―――――やがて、私は幸せな気持ちで眠りに落ちていった。 このあとすぐに訪れる、彼との別れを知らずに。 そのことを知ったのは、26日。陸くんの誕生日の前日。 下宿先の都合で、陸くんの出発が急に早まったのだ。 27日の午後。 彼はこの街を離れることになった。 .
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