隣の君に、泣かないで

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「……はあっ……はあっ……!」 3月27日。 私は全力で駅への道を走っていた。 手には陸くんへの誕生日プレゼント。 結局、いいアイデアは浮かばないままだった。 しかも陸くんの出発が早まったことで私はすっかり動揺してしまって、考えもまとまらなかった。 そんな中、選んだプレゼント。 その“仕掛け”をしているうちに時間が経ってしまって、陸くんの出発ギリギリになってしまったのだ。 陸くんは中宮駅から特急に乗って東京駅に出て、大阪へ向かう。 だから中宮駅まで見送りにいくつもりだ。 陸くんから聞いていた出発の時間まで、あと30分もない。 私は汗を流しながら、全力疾走した。 「…………陸くん!!」 特急のホームに出て、陸くんを探す。 目当ての姿はすぐに見つかった。 陸くんはホームに家族そろって立っていた。 他には見送りの姿はない。 しんみりするのが寂しくて嫌だと、クラスのみんなには出発が早まったことを教えなかったのだ。 陸くんは私に気づくと、ホッとしたように顔をほころばせた。 「……晴香……!」 私の元へと駆けてきてくれる。 手には紙袋を持っていた。 「り、陸くん……ごめんね、遅くなって」 電車の発車時刻まで、もう15分を切っていた。 これからしばらく会えなくなるのに、私はなんてバカなんだろう。 だけど陸くんは優しく笑って、走ったせいで乱れた私の髪をなおしてくれた。 「気にするなよ。来てくれてありがとう。ゴメンな、急に出発が早まっちゃって」 「そんな……。いいんだよ、謝らないで。陸くん……頑張ってね」 「ありがとう」 たまらなくなって、私たちはそのまま抱き締めあった。 お互いの体温を忘れないように。 気持ちを伝えあうように。 陸くんが私の頭を何度も撫でてくれている。 その温かさと、溢れる愛しさに涙がこぼれそうになったけれど、奥歯を噛み締めて必死に耐えた。 今日くらいは、涙はなし。 笑って彼を見送るんだ。
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