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「陸くん、頑張ってね」
「ああ」
「だけど、無理はしないでね」
「ああ」
「朝、寝坊しちゃダメだよ」
「それは……自信ないかも」
「それから……それから……」
「好きだ」
「うん……、私も大好き」
…………やがて、発車の時間が間近に迫ってきた。
お義父さんの呼ぶ声に、私たちは名残惜しく思いながらも身体を離す。
「……陸くん、これ。誕生日のプレゼント」
私は持っていた包みを陸くんに差し出した。
「え……」
「誕生日、おめでとう」
「ああ……。ありがとう。大切にするよ」
陸くんは愛しそうに私からのプレゼントを胸に抱いた。
「実は、俺も晴香に渡すものがあるんだ」
「え?」
陸くんが脇に置いていた紙袋を渡してくれた。
「……これを返すよ。今までありがとう」
「返す……?」
何か貸していたっけ? と思いながら、袋の中を覗きこんだ。
すると……
「……あ……」
そこには黄色い絵本。
「これって……」
「そう。『ひとりぼっちの、れもん』。実はさ、俺のものが見つかったんだ。だからもう大丈夫」
「そうなんだ……。よかったね」
「それに、晴香に最後まで読んでほしくて」
「え……?」
最後まで……?
どういう意味だろう。
「晴香、その絵本のあとがきを読んだ?」
「え、あとがきなんかあるの?」
「あるんだよ。……良かったら読んでみて。その絵本の印象、変わると思う」
「…………う、うん。わかった」
私がうなずくと同時に、発車ベルの音が鳴り響く。
「……おーい、陸! 早く乗れよー!」
お義父さんの少し焦った声が急かしてきた。
陸くんはその声に『わかった』と答えると、私から離れ電車に乗り込む。
入り口から上半身を出し、手を振ってくれた。
「り、陸くん。メールするね、電話もするね!
またね……また……またね!」
「ああ、またな! 晴香、ありがとう!
…………晴香が、俺の白紙を埋めてくれたんだ!」
「え……?」
――――プシュッ!
電車のドアか閉まり、私と彼をさえぎる。
そして音を立てて発車をすると、すぐに遠くに見えなくなった。
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