プロローグ

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 1993年、7月。 俺は杉田家の長男としてこの世に生まれた。 生まれてきてくれてありがとう。 母が俺の3歳の誕生日の時に言った言葉だ。 男なんだから、泣かないの。 母が俺が6歳の時、サッカーの試合に負けて泣いて帰ってきた時に言った言葉だ。 そんな母が俺は好きだ。 別にマザコンなわけじゃない。 女手一つで俺を育ててくれた母に感謝している。 父は俺が物心ついた時にはいなかった。 その事を聞く度に、母は 「お父さんの分まで頑張るから、ね」 悲しそうに言う母に、いつしか俺は聞くことをやめた。 別に父が欲しいとか、そんなんじゃない。 けど、周りは父からも愛情を貰ってグングン大きくなっていっていた。 だからって、俺がグングン大きくなっていかなかったわけじゃあないさ。 母は誰にも負けないくらい、俺に愛情をくれた。 父の分まで。 そして俺は今、16歳にまで成長した。 2011年、4月。 この日、俺は16歳にして 自分の歳、血、DNAを恨んだ。 もっと早く生まれれば良かった。 もっと愛情をくれる親の血を引けばよかった。 杉田家に…生まれなければ良かった。  一ヶ月前。 母の口から思いがけない言葉が、俺の耳に聞こえた。 「総悟(そうご)…お母さんね、結婚しようと思うの」 俺には、母の…杉田 唯(ゆい)の人生初のドッキリだと思った。 だが、まだ四月馬鹿にしちゃあ早い。 更に話を進めた。 「結婚したら、総悟にも…お父さんができるのよ。それに…」 「可愛い、妹も」 「妹…!?」 聞けば中学一年生になる、結婚相手の一人娘らしい。 「優しいお父さんと…元気な妹よ。総悟…」 母が頭を下げた。 「…ごめんね」 「な、何で謝るんだよ。お袋は何も悪くねーよ」 「でも、総悟の…総ちゃんの意見も聞かずにお母さん…」 「いいんだって」 母はゆっくり顔をあげた。 俺の口元は緩く、微笑んでいると思われる。 「お袋は今まで一人で頑張ってくれたんだ…だからよ、ちょっと驚いたけど、さ。お袋が望んでんなら俺は構わねェよ」 「総ちゃん…」 「新しい家族で、新しい人生スタートするの。俺は賛成だ」 この言葉の『せい』で、母は結婚した。 今になって後悔してる。 幸せのためだ? 俺は、どれだけ重い運命を 綺麗事で済まそうとしたんだ。
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