其の一

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信号に足をとられていると、冷たいビル風がビュウっと通り抜けて、私は寒さに身を縮こませた。 キャメル色のロングコートの襟を持ち上げて冷気を防ぐ。 もうすぐ十二月。昼間は暖かいが、朝と夜は各段に冷える。 新卒の就職率も、氷河期を下回る状態だと言うし、本当に凍え死んじゃうんじゃないかと思う。 私の通っている短大も、この時期に就職が決まった子は半分くらい。 実は明日の面接だって、期待なんてしてないんだ。 特に行きたい所もないし、数打ちゃ当たると思って何社も受けているだけ。 ここ東京は生きるだけで精一杯になる。 こっちに出てきてから、夢や希望を探そうなんて思ってた私が甘かった。 夢や希望があったって、掻き消されるのがこの街だ。 残るのは、ただ息をして動いている肉体だけ。 ようやく赤信号が点滅を終え、青に変わると、私は一斉に動き出した群集に混じって、品がいいとは言えないネオン街に再び足を踏み出した。
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