其の一

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ふと気が付いて、丁寧にトップでまとめていた髪のピンを引き抜く。 うねりのある髪が、ふわりと腰まで落ちた。 ……第一、この見た目も良くないんだ。 光に当たると赤く見える、癖のある茶色の髪。生まれつきだが就職には向いていないのだろう。 友達は黒に染めればと言うけれど、元々の自分を、なんで偽らなきゃいけないんだと思う。 顔だって、カラーコンタクトを入れたような茶色い目と、二十には見えないと言われる幼い顔は、バーでは特定の男性客がついたとしても、仕事を任せられる信用さは、ないのかもしれない。 ……いや。容姿のせいにまでし始めたら終わりよね。変えようがないし。 何十社も落ちていると、何がいいのか悪いのか、分からなくなってくる。 そんな時、慰めてくれる彼氏でもいればいいのだけど……。 ……ん? どんどん気持ちが落ち込んで、抜け出せ無くなった時、辺りに違和感を覚え、足を止めた。 そこは信号を渡った先、何本もの電車が通る、新宿大ガードの下。
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