其の後

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「良かったんだ…………一恵が俺の全てを忘れてくれて。それで幸せになってくれるのなら、俺も満足だった」 蓮の声は懺悔をするように重苦しかった。 蓮の苦しみが直接頭に響く。 後悔なのか悲しみなのか、それが一恵さんに対してなのかは分からないが、祈りを捧げるように宙を仰いだ。 「だけど、一恵は苦しんでいた。何か大切な事を忘れてしまったと、俺が死んでからは以前の明るさは無くなってしまった。輝くような目も溌剌とした表情も、魂が抜けたように暗くなってしまった。そして俺のあげた指輪を握り締め、俺の好きだった香を毎日焚くようになった」 一恵さんはきっと、蓮が死んでしまったという事実を受け止められず、記憶喪失になることで精神が崩壊する事を防いでいたのだと思う。 だけれども、感情だけは残ってしまった。 初めて人を愛した。 その愛情はいつまでも一恵さんの中でくすぶって、消える事は無かった。
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