第零章 大統領選出計画

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「事件の発端は、これか」 アヴァロンは興味の無さそうな声で呟く。 酒によって理性のタガが外れ、本能の赴くままに料理を食らっていく阿部氏。 皿が空になる度にブザーを鳴らし、阿部氏は両手を使って煌々(こうこう)と燃え盛る金網の上に肉を投下している。 「器用なのね、彼」 「人間達は【ふうどふぁいたあ】なる言葉を使っていたみたいだ」 キアラの問いにグロウスが答えている間も、(せわ)しなく店員達は動き回っていた。 突如として始まった、阿部氏とスタッフとのお互いのプライドを掛けた戦い。 その勢いに、店内はざわつき始める。 写真を撮る者や様子をただ見ている者、自分の料理が来ずに不満を噴出している者まで現れてきていた。 「この馬鹿が……」 「ベルゼブブ家の本領発揮って場面だね、こりゃ」 憎々しい眼差しを向けるマシュフォワールをよそに、グロウスは呟く。 いよいよ店側の品が底を尽くと、何事も無かったかのように平然と会計を済ませて出ていく阿部氏。 その後ろ姿が消えたところで、映像は途切れた。 「まー、こんなことが一晩だけで五軒も起きれば、大きく報じられてもおかしくはない」 グロウスがポケットから新聞記事を取り出して、アヴァロンの方へと滑らせる。 「あいつは悪魔だ」「まるで肉の地獄絵図を見ていたかのようだ」などという第三者からのコメントが多数載せられていた。
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